[4冊目]ひらがなで考える商い(下巻)

--------------------------------ーーー

□書 名: ひらがなで考える商い(下巻)
□著 者:伊藤雅俊

--------------- 内 容 -------------ーー

経営者は鳥の目、虫の目、魚の目を持つ
・鳥の目は大局感。今なら注目点はグローバル化、情報化等。
・虫の目は現場を見る目。売り場で起きている細かな変化を見つける。「お客様は誰、何を求めている、何を買いたい」
 それを察知する。お客様を大衆として、ひとくくりで機械的にとらえると間違いが起こる。小売業の基本はできるだけ小さく、具体的に考えること。たとえば、品揃えを考えるとき、会社全体で考えると評論になってしまい。店頭で役立つアイデアは生まれない。
・魚の目は潮目を見極める力。時代の潮流は恐ろしい力を持つので、逆らうこともできず、気づかずに流される人も大勢いる。うまく使うとスピードが上がる。

 

社員300名以上なら社是がいる
・人間は弱いもので気が緩むと安易な方に流されてしまう。こうした脆さを防ぐために社是を使う。
 イトーヨーカ堂の社是
  私たちは、お客様に信頼される誠実な企業でありたい
  私たちは、取引先、株主、地域社会に〃
  私たちは、社員に〃
・社是の精神をもっとこまかにした規則を作る場合は、定めた上は頑固なまでに徹底して守らせる必要がある。

 

企業の共同は難しい
・共同仕入れの試みの多くが、はかばかしい成果を上げられなかった。「共同」という名の「無責任体制」に陥り、もたれあい状態になりやすいのではないか。また、共同化はそれを始めると拡大することが目的となり、本来の目的を失くこともある。
・共同は参加メンバーの相互信頼がよほど強固で、優れたリーダーがいないとうまくいかない。独立独歩、ひとりで道を切り開いていくのが商人のあるべき姿である。

 

お金が大事なのは
松下幸之助「お金が大事なのは、人々が働いて、汗を流した結果としてここにあるものだからだ」。お金の背景にある人々の労働が尊い。
・壊れたり、価値が下がることがない信用という無形の財産こそが、お金や商品より大事なこと。

 

万年悲観派
・私は最悪の場合はどうなるかを考えて経営してきが。うまくいく場合ばかりを想定して経営するのは、ギャンブルに賭けるようなもので危なっかしい。
・私は「今が会社の危機だ」と全期間考え続けてきた。良い時でも、「こんなときこそ危うい、気を引き締めなければ」と考えていた。
・立派な業績をあげると、経営者はホッとする。肩の荷をおろして一息つきたい気分であるが、ここで気を抜いてはいけない。歯を食いしばって、すぐに次の目標に向かわなければならない。
・どこか一か所で緊張を緩めると、自覚もないままに次々と手綱がゆるむのではないか。


創業の心を忘れない
・おごりの心に陥らずにすむのは経営上の大きな課題である。人間の心は強靭なものではないので難しい。
・「初心忘れるべからず」という言葉があるが、「初心」とは「創業の心」である。創業した時は「今日は果たしてうれるのだろうか」と不安な気持ちを抱え、お客様が神様のように見える。だが、商売が軌道に乗ると、感謝の気持ちや謙虚さが薄れ、自分の力だと過信する。
・「小さな事にぐらつかない自信」を持つには、
   過去の努力→現在の信用・好成績→
     現在の将来のための努力→将来の発展
 という過去、現在、将来を通じた一貫した背骨を通す努力をすることが重要である。

 

ウォルマートに学んだこと
・米国人の経営行動が、頭の中で考えたことでなく、経験をもとにしている。実際に色々やってみて、よかったことを取り上げていく。身体で覚えた経験が息づいている。
・自立の心を持っている。野生動物の様に自分の力が頼りであり、政府などはあてにしない。
・国際化というものは、こうしたたくましい相手と戦うことである。

 

人材を活用する
・「全部自分で処理しようと考える必要はない。それぞれの分野に精通した人がいるはずだから助けてもらえばいい」
・一方で、使う側は謙虚な気持ちを持つことが重要である。謙虚な気持ちが失ったら、それは社員に感染し、謙虚に対応する社風が失われる。だから、謙虚さだけは絶対になくしてはならない。
・私はなんでも言うことを聞く人よりも、ときには私に逆らい、直言する人を高く評価する。イエスマンばかりをかわいがり、身辺に集めるようになったらおしまいだ。

 

立派に仕事をする
・私は組織が官僚化するのおごりの気持ちが潜んで売ると思う。会社の中央本部が現場に指図するようになるのはおごりがあるからだ。お客様を一番大事にしないといけない小売業で本部が権力を持ち始めたら、それは衰退への道を歩み始めている。
・官僚的思考の人の特徴は、物事を自分の問題としてとらえないということである。どんなに立派な議論でも、三人称で話すのは責任感に欠ける。仕事は頭を使うことも大事だが、それ以上に身体を動かして行動に移すことが大事なのだ。
・実行するにしても、惰性でやれば進歩がなく、頭が必要になる。つまり、立派に仕事をするには、身体と頭がともに働くことが必要である。
・また、会社の仕事はグループでやるものだということを忘れてはいけない。仕事を誰とでもうまくやっていける能力があるかどうかは、社会人として一人前であるかの分かれ道だ。

 

社員のやる気
・社員のやる気を引き出す方法に絶対に正しい答えはない。だが、やる気をなくす原因ははっきりしている。自分の努力が会社から正当に評価されていないと感じた時、社員はやる気を失う。
・だが、現実にはすべての社員を正当に評価するのは至難の業。だから、努力を怠っていいというわけでなく、最大限の努力をするのは会社として当然のこと。
・また、官僚化はやる気を引き出す上での最大の阻害要因でもある。官僚化した組織では社員の取り組みに文句をつけてきて、現場のやる気を阻害してしまう。

 

社風と体質
・社風とは良いことを表し、体質とは悪い事柄を表わす。悪い体質はすぐに社内に広がるが、社風を確立するには長い間の絶えざる努力が必要である。
ヨーカ堂では単品管理が社員教育のポイントになっている。当事者意識のある社員は、どんな難しい問題が起きても、自分の問題として捉えるが、当事者意識が低い社員は他人に責任を転嫁する。単品管理は社員に当事者意識を持ってもらうのにとても役立つ。
・単品管理をすると、社員が仕入れ、売り方などのすべてを任せるので、エキスパートにならざるを得ない。どうすればもっと売れるか、自分で考え、判断する。
・仕事の中に「考える」、「仮説を立てる」という要素が加わると、人は俄然やる気を出して生き生きとしていくものである。
・小売業で大切なのは「基本の徹底と変化への対応」である。人間は惰性に流されやすい生きものであり、強い意思を持っていないと同じ事を繰り返す。「基本の徹底」は同じことの繰り返しでなく、「変化への対応」するためには絶えざる改革が必要となる。

 

--------------- 感 想 -------------ーー

 上巻に続き、万年悲観派などの危機感のもたせ方や、仮説検証による問題の真因を捉えて改善し続ける姿勢は、トヨタ式経営にもつながる考え方が含まれているように思います。

 また、次回の書評で登場しますが、鈴木氏の経営姿勢の共通した考えが底流にあることがわかります。

 なお、ウォールマートの例が本書では記述されていますが、これは今の姿のウォールマートではなく、サム・ウォルトンが健在であった時代の同社のことを指しています。現在の同社は良いことは聞きませんが、当時は合理的、効率的だが、人間的な経営を行っていたらしいです。