[6冊目]採用基準

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□書 名:採用基準
□著 者:伊賀泰代

--------------- 内 容 ---------------

1.リーダーシップと日本人

成果より和を尊ぶ組織
・高い成果目標がチームに課された時、初めてリーダーシップは必要とされる。そして、成果が厳しく求められない状況が多いこそ日本ではリーダーシップが問われることが少ない。成果が達成されなくてもよいのであれば、あえて摩擦を起こし、他部署の意見に強く反対する必要性は誰にもみつけられないでしょう。
・また、日本では、本来、成果目標を問うべき状況であるにもかかわらず、その目標が明確にされないために、みんなが和を優先し、誰もリーダーシップを発揮しないことがよくおこる。

 

日本の管理職
・日本の管理職は、管理能力、リーダーシップ、プレーヤーとしての能力の全てを求められるにも関わらず、管理能力とプレーヤーとしての能力が一定水準に達することで管理職に就くことが多い。
・また、調整役もリーダーと間違われている。調整役がいると話がうまく進むことが多いが、これはリーダーではない。組織としての高い成果よりも、関係者の気持ちや組織の和を優先して行動をしているためである。
・日本人はリーダーを命令者と考え、スティーブジョブス等のワンマン経営者を好む。しかし、そんな人も身近で働いたい人にとっては、極めて独善的な人である場合も多い。リーダーは高い成果を出すことにこだわるため、時代的・空間的に遠いところにいる人から見れば、リーダーが出した成果のみが目に入るが、周囲で苦労した人々、嫌な思いをした名のなき人々の情報は伝わらない。

 

自助、共助、公助
・自助とは個々ががんばる。共助はコミュニティで助ける。公助は国の制度で助ける。
貧しい時代は自助と共助が基本だが、経済が発展するとコミュニティが解体する一方で、公助が充実する。しかし、高齢化がすすすみ、産業が停滞すると、公助が維持できなくなる。これからは再び共助が重要となってくるが、この中でリーダシップが必要となる。


2.リーダがなすべき4つのタスク

①目標を掲げる
・チームが目指すべき成果目標を定義する。そして、その目標はメンバーを十分に鼓舞できる魅力的なものである必要がある。
・目標を分かりやすい言葉で定義し、メンバー全員に理解できる形にしたうえで見せるのがリーダーの役割である。
・カリスマ経営者の多くが、他の人々から見れば無謀で有り得ない高い目標を口にするが、そこに到達することで大きな高揚感を得られる魅力的な目標を掲げて、多くの人々を動機づけようとする。
・容易に達成できる目標なら、リーダーなぞは不要である。リーダーは変化に対応するだけでなく、変化を起こす力のある人であるべき。
・リーダーシップのある人は、与えられた目標とは別に高い目標を設定し、自分なりの言葉に言い換えて、フォロアーを動機づけていく。

 

②先頭を走る
・どんな分野にせよ、最初の一人になるのは負担が大きく、その立場に自らをおくと決めることは勇気がいる。一人目になることは、失敗する可能性が高いため、必ずしも得な選択ではない。
・それでも最初の一人目になり、先頭に立つことを厭わないのがリーダーである。公衆の前に自分をさらし、結果がうまくいかない場合も含めて、そのリスクや責任を引き受ける覚悟があり、結果として恥をかいたり損をする可能性も受け入れる、受容度の高い人である。
・先頭を走る人が、一番前で最初に方向性を決めてこそ、メンバーは安心して走ることができる。

 

③決める
・リーダーは決める人である。たとえ十分な情報が揃っていなくも、検討を行う時間が足らなくても、決めるべき時に決めることができる人である。日本の組織の決断が遅いといわれるのは、この点におけるリーダーシップの差が出ている。
・決断にはリスクが伴い、リスクを取るのがリーダーの役目である。米国では、「A bat dicision is better than no decision」とも言う経営者もいる。しかし、日本人は人でなく、”場”にリスクを負わせるというびっくりする手法がとられる。
・決断は前に進むことにより、問題点を明らかにし、何かを改善すべきかを浮き彫りにするために行うこともある。問題点が洗い出されれば、一歩前に進むことができる。

 

④伝える
・リーダーの大切な仕事はコミュニケーションである。日本の組織は、長い間、同質的な人々で構成されてきたため、説明責任や言葉の力を軽視しがちである。
・強いチームとは、多様な価値観を持つ人が集まったチームであり、多様な個性の集まったチームを率いるには、リーダーには常に「言葉で伝える」ことが求められる。
・多様な人により構成されていると、同じゴールを見ているはずだったものが、少しずつ違ったゴールを目指すということも発生しうる。
・だから、リーダーのポジションにある人は、何度も繰り返して粘り強く、同じことを語り続ける必要があります。伝わっているかどうかも確認せず、「伝わっているはず」という前提を置くのは怠慢以外のなにものでもない。


3.リーダーシップの学び方
①バリューを出す
・”バリューを出す”とは、何らかの成果(付加価値)を生むということで、会議で有用な発言をしたり、ユニークな情報を提供したり、分析結果で画期的な洞察が得られたりすると、バリューがあると呼ばれる。
マッキンゼーでは「バリューゼロ」ということは、最も恥ずかしいこととされている。短い時間単位で、「どんなバリューをだしたのか?」と問い続けることは、行動の変容を伴い、仕事の生産性を向上させる。

 

②ポジションをとる(結論を出す)
マッキンゼーでは常に、自分の立ち位置をはっきりさせ、自分の意見を明確に述べるように求められる。求められるのはプロセスでなく成果であり、成果につながる可能性のある結論を明確にすることが求められる。「自分の意見を言え、分析の結果や理由をその後に述べよ」と。
・結論をフォーカスした議論は、仕事の生産性を向上させる。何故なら、結論を左右しない枝葉末節の分析に時間を使わないようになるため。反対に、結論を左右する重要なポイントに関しては、入念に検証しなければならないと意識が強くなる。
・完璧には予想することは不可能である場合、まずは決めてから問題点を洗い出して、対策を考えていくのは、新しいことを試す際のひとつの方法である。ポジションと取ることで、初めて得られるフィードバックや意義は、どんなに事前準備を詰めていても得られないほど、有意義なものになる。このようなフィードバックを取り込んで、継続的に改善していくやり方のほうが、現実的な場合もある。
・さらに重要なことは、目の前の案件について、「どこまで詰めたら決断すべきなのか」、「どうこまで詰めたら始めるべきなのか」を、意識的に考えておくこと。そうしなければ、着手が遅れてしまうことになりうる。
・日々ポジションをとることを意識すれば、自分に直接関係のない事柄であっても、当事者意識をもって考えるようになる。自分の結論を持つ癖が、決断力の実地訓練となる。

 

③自分の仕事のリーダーは自分
・自分が中心に位置する放射状の組織図を意識する。これは、「自分の仕事に関しては自分がリーダーであり、パートナーやマネージャを含めた関係者をどう使って成果を最大化するのか、それを考えるのが自分の仕事だ」という意味。
・たとえば、会議に出席するならば、自分の成果を得るために、上司や他のメンバーからインプットを獲得し利用するための場として会議を活用しようとする。
・具体的には会議の前に、
 議論したいこと、依頼したいこと、調整したいこと、決めたいこと
を相手ごとに達成目標として決めておく。

 

④ホワイトボードの前に立つ
マッキンゼーでは新人育成でインターナルチーム(社内の様々な活動に関わるチーム)での活動が利用される。同チームでの活動を通じて、チームでミッションを達成する方法を実地で学んでいく。
・その際には”ホワイトボードの前に立つ”ことが求められる。これはコンサルティングファームにおいて、議論のリーダーシップをとることを示す、象徴的な行為である。議論のリーダーシップを採るためには、会議の参加者が発する意見を全体像の中でとらえ、論点を整理したり、膠着状態を脱するために視点を転換したり等、様々なスキルが求められる。
・ただし、通常のOJTの訓練と異なり、「とりあえずやってみて、本当にできない部分だけを誰かに助けてもらう」という実践的な方法で鍛えられる。リーダーシップは今すぐ発揮することが求められる。
・そして、一定の条件下でリーダーとして機能するならば、すかさず困難な状況が与えられ、次々とより強いリーダーシップを発揮すべき機会を与えられる。こうして継続的に多彩なリーダー体験を積むことにより、自信を深めていく。

 

 

--------------- 感 想 ---------------

 採用基準というタイトルから、人の採用方についての解説かと勘違いしそうですが、リーダーシップに関して論じた書籍です。

 リーダーたる人の心得や行動について解説されており、これからリーダーを目指す人たちに対し、”理想のリーダー像”をイメージさせる内容となっています。

 だが、リーダータイプの人材を作り出す方法については触れられていません。採用基準というタイトルの通り、リーダはタイプの人材は作り出せるものではなく、多くの人材の中からその素質のあるものを発掘し、選別するということしかできないという考えが根底にある様です。

 素質のある者を見いだし、同書を読ませてリーダー像をイメージさせ、業務上で機会を与えて育てていくというプロセスが、現実的なリーダー育成方法かもしれません。