[5冊目]鈴木敏文の実践!行動経済学

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□書 名: 鈴木敏文の実践!行動経済学
□著 者:鈴木敏文

--------------- 内 容 -------------ーー

1.頭の使い方

情報を釣る「関心のフック」
・情報は大量に集めるだけでなく、価値付けができてなければならない。それより大切なのは、頭の中に「関心のフック」を多く持つことである。誰でも関心のある情報は自然と取り込まれてくる。
・関心のフックを生み出すのは日頃からの問題意識である。常に新しいものを海だそうと挑戦する意欲や問題意識こそが情報力を支える。

 

脱損失回避の心理
行動経済学のプロスペクト理論とは、「人間とは損と得を同じ天秤にはかけない。得る喜びよりも、失う痛みの方を2~2.5倍大きく感じる。」
・これを断ち切るには、見えない機会ロス見える化し、ロスにより失われる数字より、大きな利益を得られることを明らかにしていく必要がある。

 

トレードオフ思考
・一つは上質さの追求、もう一つは手軽さ(コストを含む)という2つの方向性がある。上質さと手軽さには一般的にはトレードオフの関係にある。
トレードオフは二者択一を解釈されるが、これは正しい理解ではなく、上質さの中にどれだけ手軽さをちりばめるか、もしくは手軽さの中にどれだけ上質さをちりばめられるかがトレードオフの戦略である。
・この2軸で考えて、競合が進出していないトレードオフの空白地帯を見つけることができれば自己差別化できる。

 

作業と仕事
・「作業」とはあらかじめ答えがわかっ行うもので、「仕事」は自分で責任をもって挑戦し、答えを出して問題解決していくものである。
・自己差別化するためには、社員一人ひとりが作業ではなく、独自のアイデアと創意工夫を生み出していく仕事を行う必要がある。
・経営者は社員に自己裁量を与えるなどしてやりがいを引き出し、それが成果に結びつくような好循環をもたらす用にすることが重要である。

 

キュレーション戦略
iPADはキュレーションされたコンピュータと言われている。
・キュレーションは次の流れで行う。
①新しく開発する対象のプラットフォームを想定し、既存の意味を問い直し、新しいコンセプトで再定義する。
②このコンセプトに基づいて、コンテンツを選択肢、絞り込み、結びつけて編集する。
③新しい価値を生み出す。

 

制約条件と勉強
・世の中には、新しいことを始める前に制約条件を考え、できない理由をいくつも並べて不可能だと結論づける人が多い。制約条件を固定して考える人には、新しい調整はとうていできない。
・目指すものを実現する方法がなければ、自分たちで方法を考える。必要な条件が揃っていなければ、その条件そのものを変えていくのが挑戦である。
・「新しい仮説は勉強からは生まれない」。「勉強」すればするほど、過去の制約条件を学んでしまうことになる。専門家が反対するものには、どうすればそれが成り立つのか、自分たちの既存知識では答えが出さないものもある。

 

「伝える」「わかる」
・人は知識や経験から、頭の中に様々な要素と構造が組み合わさったテンプレートを数多く持っている。もし、伝えようとする内容が相手の頭の中のテンプレートと一致すれば、「伝える」と「わかる」が一致し、言葉の裏付けが共有され、相手に自覚が生まれる。
・きちんと伝えるには相手に同じテンプレートを作らなければならない。平易な言葉で話す、相手の知りたい欲求を引き出す、例え話や数字を効果的に使うなどの方法は、相手の頭の中に同じテンプレートを作るための話し方の工夫にほかならない。

 


2.部下の指導方

 

脱・自己正当化
・「人間は失敗すると自分が納得しやすい話を作ろうとする習性がある」。成功すると自分の力だと思い、失敗すると自分以外の要員の性にして、責任を回避する。心理学では「自己奉仕バイアス」とも呼ぶ。その理由は自分を守ろうとする心理が働くこと、そして他人からよく思われたいとして、つじつま合わせをしたがる。
・部下は自己正当化を図ろうとする存在だが、部下の成長を促すには仕方がないと妥協せずに追求し、相手に気づきを与え、からを破らせることが重要である。
・また、上司は常に真実を掴もうとする探究心が必要で、バットニュースを埋もれたままにせず、簡単に納得しない情報感度を持ち、部下を突き詰めて追求していく。探究心は強い問題意識から生じる。自分の思い込みを見つめ直し、真の原因を探るように心がける。

 

目標設定と部下の成長

・数値目標は「独り歩きする目標」にもなれば、「殻を破らせる目標」にもなる。
・困難な課題であっても、目標とその意味合いが明確であれば、部下はそれを目指して今までのやり方を見直し、新しい仕事の発想を模索するようになる。

 

時間をかけてもいい仕事はできない
・人数が限られ、時間が限られれば、役割を細分化したり固定したりせずにマルチに対応しなくてはいけなくなる。そのために、何が本質的に重要か、集中して考えながら仕事の絞り込みをする必要が出る。
・マクロから見て、目指すべき目標と成果を明確にし、その上でミクロの仕事がそれに沿っているか検証することになる。それにより、ミクロの仕事に捕らわれて、ムダを生んでいたことに気づく。
・人間は善意の生き物だからこそ、必要最低限の人数で時間をかけずに取り組ませた方が効率化し、成果が上がりやすくなる。

 

3.リーダーシップ

 

絶対価値と相対価値

・競争社会にいると、我々は他社と比較した相対価値に目を奪われる。しかし、売り手として最も優先すべきなのは、顧客に満足してもらうという「あるべき姿」をひたすら目指す絶対価値の追求である。
・相対価値を比較しても、自分たちの視点では差異があっても、顧客からすると見分けがつかないことが多い。単なる自己満足である。
・絶対価値を社員に理解させるには「真の競争相手」が誰かを、はっきり認識させる。それはめまぐるしく変化する「顧客ニーズ」そのものである。

 

駆動目標
・「駆動目標」とは、ビジョンや理念を具体的な活動に近づけ、現場での対話や実践と連動させるための行動の基準になるものである。
・セブンーイレブンの場合は、「変化への対応」という企業理念を当たり前に実現させるために、「機会ロスの最小化」という駆動目標を設定している。

脱・伝言ゲーム
・駆動目標が明確であっても、それを社員に周知しなければ効果がない。トップ自身が真剣に経営に取り組んでいることを伝えるには、ダイレクトコミュにエーションでなければ不可能である。
・これは「伝言ゲーム」を排除するためでもある。トップから情報が下りてくる場合、トップ以外が否定的であったりすると、情報が下りてくる過程でネガティブなバイアスが入り込んでしまうためである。

 

爆発点理論
・経営を行う上で徹底して排除してきたことが、「なあなあ」「まあまあ」の暗にな妥協やなれ合いである。
・なれ合いにならない習慣を社員全員に身につかせていく。それが困難なことであっても目を背けない。妥協をせずに徹底する姿勢が積み上がって、あるとき大きな成果となって、必ず開花する。それが、爆発点理論である。

 

人間の持つ競争力
次の2つである。
①ブレイクスルー思考
・既存の概念を壊して、新しいことに挑み、新しいものを海だそうという意欲と能力。
・未来の可能性が見えた時(実現可能性6~7割)、そこから振り返って過去や現在を問い直し、今やるべきことを決断する。
・今は不可能なら、可能にする方法を考え、今が条件が整っていないなら、自分たちで条件を用意して、壁を突破する。
②コミュニケーション能力
・相手と対話をしながら一緒に考え、人間性を含めて相手と説得する能力。お互いにコミュニケーションをしながら、挑戦する心を奮い立たせる。

 

凡事を重ねて非凡化

セブン&アイグループでは「変化への対応」と「基本の徹底」の2つをスローガンに掲げている。

・「基本の徹底」を大切にするのは、当たり前のことを当たり前に行っていけば、それが結果として自己差別化に結びつくからである。当たり前のことを徹底して実践することはたやすくなく、凡事を重ねていくと非凡化するのである。

・また、「基本の徹底」を実践すれば、日頃の積み重ねから、変化に気づきやすくなり、「変化への対応」ができるようになる。

 

--------------- 感 想 -------------ーー

 書籍では仮説検証についても詳しく記載させていましたが、まとめでは省略しています。是非、関心のある方は書籍でご確認くださいませ。

 この本は勝見明氏が鈴木氏にヒアリングをしてとりまとめた形になっております。

そのため、自伝的に経営者の思いが綴られたものよりは客観的にまとめられており、実用性が高い内容であるかと思います。

 まとめ記事をご覧頂ければわかるとおり、鈴木氏は「人間とはどんな生き物であり、どのように考え、行動をするものか」というのを冷静に見つめているという印象を持ちます。

 「凡事を重ねて非凡化」というのは、前回の伊藤氏の話につながりますが。伊藤氏の仕事への思想を受け継いで、現実主義者の鈴木氏が実践していったということのように見受けられます。